しごと紹介
- 1. 日本のふだんに、日本のいいものを届けたい…ASABAN(アサバン)プロジェクト
- 2. 亜麻からケーキが生まれた!
- 3. 失敗こそ財産。壁の向こうに新たな出会いが待っていた。
- 4. 広がる夢を、みんなで一緒に育てたい。
1. 日本のふだんに、日本のいいものを届けたい…ASABAN(アサバン)プロジェクト
可憐な薄紫色の小花が、風に揺れる。
この小さな花から、大きなプロジェクトが多可町から広がろうとしている。
地場産業である播州織の伝統技術を活かし、日本独自の産業であった麻織物を復活させよう――。エジプトで6000年前に育てられていた亜麻の栽培が、多可町で始まっている。
亜麻織物(リネン)は、使い込むほど暮らしになじむ丈夫でしなやかな高級素材。ふだんの暮らしにこそ、上質なものを採り入れて長く愛用してほしい。そんな思いから、2008年に門脇織物株式会社と門脇保文社長が共同で立ち上げたのが「ASABANプロジェクト」だ。
ASABANとは「麻の播州織」「麻を播(ま)く」「朝から晩まで」暮らしに快適と安全を…という3つの意味を込めた、門脇織物株式会社との共同新ブランド計画。
国産の亜麻で糸を紡ぎ、亜麻織物を生産する。
そんな大きな目標に向かい、2010年から工場前の田畑に種を撒き栽培を開始。思考錯誤を繰り返しながら、2013年には亜麻の繊維と種の収穫に成功。プロジェクトは今、新たなステージへ向かっている。
「亜麻の種を発芽させるのは、実はなかなか難しいんです。風が吹けば飛び、雨が降れば流れる。発芽しても水が多すぎると芽が消えてしまう。まごころを込めて育てています」と門脇社長は胸を張る。
2. 亜麻からケーキが生まれた!
亜麻の実は、健康に必要な栄養素をたくさん含んだヘルシー食品。しかもASABANの亜麻は、茎から取り出した繊維も、実から抽出した種もすべて100%オーガニック。門脇社長は、この亜麻の実を使い、世界にも例が無い「亜麻仁ケーキ」を生み出した。
モチモチした食感、豊かな自然の甘み、高い栄養価。さらに自家栽培による安心・安全な素材を使ったケーキとして多可町特産品にも認証され、地域の物産館やネットショップ、各種イベントなどで販売されている。
きっかけは、偶然だった。ある秋の日。毎日のように亜麻の花を見学に来ていた一人の女性に「おいしいパンが焼けるよ」と、何気なく手渡した亜麻の実の粉。するとその日の夕方、女性はパンではなくケーキを焼いて門脇社長のもとを訪れた。
そのおいしさに驚いた門脇社長は「亜麻の実を使ったケーキを作って売ろう!」と決意。女性に「一緒にケーキを作ろう」と声をかけ、2ヶ月後には亜麻仁シフォンケーキ、亜麻仁チーズケーキ、亜麻仁マドレーヌの商品化に成功。販売を開始した。
「もちもちしてる」「ふわふわだね」「しっとりしていて食べやすい」「甘すぎなくておいしい」。お客様たちの喜びの声に後押しされ、売上も順調に伸びていった。
3. 失敗こそ財産。壁の向こうに新たな出会いが待っていた。
順調なスタートを切った亜麻仁ケーキだったが、半年ほど過ぎた頃から壁にぶつかることになる。季節の移ろいとともに、温度管理の難しさに直面したのだ。
「当初は、いろいろ失敗を重ねました。それも経験であり財産です。失敗無くして成功はありません」。楽しみながら取り組むからこそ、夢や希望が生まれると笑う門脇社長。壁を乗り越えた現在は、地元での店頭販売だけでなくインターネットを通じて全国にもファンを広げている。
現在ケーキ作りは、多可町八千代区にある「なごみの里・山都」を生産拠点に、毎週木曜・金曜の2日間、女性スタッフ2名が奮闘中。販売用の商品をつくる一方で、新商品開発のアイデアを練る日々だ。
「夢のある人、自分で何かをやりたいという思いを持っている人と出会いたい。ケーキを焼きたい人だけでなく、生きがいを見つけたいという方も大歓迎です」
4. 広がる夢を、みんなで一緒に育てたい。
ケーキを育てながら、門脇社長が目指す次の挑戦。それは、亜麻の酒づくりだ。
「亜麻を植えた田んぼは、土壌が改良されることがわかったんです。無農薬の酒米を育て、酒づくりに挑戦したい」
小さな花が引き寄せた小さな出会いから広がる、大きなASABANプロジェクト。一人でも多くの人と夢を一緒に育ててゆきたいと、門脇社長は願っている。
経営者紹介
門脇保文織布工場・亜麻の栽培を考える会 門脇保文社長
1. 知識とアイデアで、切り開いてきた独自の道
本当は、就きたい職業があったんです。
祖父が始めた門脇織物から、昭和37年に父が独立して今の門脇織布工場を立ち上げました。そのため私が事業を継承しなくてはならなくなり、工業高校へ進みました。
いろんなアイデアを出し続けましたよ。織機や畦取り機(糸を揃える工程のひとつ)を使いやすく改良したり。当時、二人がかりで運んでいたビームキャリア(糸を染色するための設備の一種)を、一人で運搬できるように工夫もしました。
ムダだと思えること、できなくて不便なことなど、現場の悩みをアイデアと工夫で解決してきたんです。知識と情報があればアイデアが浮かびます。できるか、できないかのストーリーが描ければ、なんでもカタチにできますよね。
ASABANプロジェクトが、その代表です。亜麻の茎から、繊維がとれるようになった。リネン100%の糸にするのも夢ではなくなった。種はケーキになり、たくさんの人に喜ばれている。どれも知識と情報、アイデアから生まれています。
2. 小さな花から、大きな夢が生まれ続ける
亜麻の栽培は、いろいろな目標や夢を私に与えてくれます。
そのひとつが、ケーキ事業。今のいちばんの目標は、新商品の開発です。コンスタントに売上を伸ばし結果を出すことで、みんなの力につなげたい。まだまだこれから伸ばしていける事業です。
もうひとつは、播州織の産地全体を一つにしたいという目標。海外で闘える地場産業として、産地全体の向上に貢献したいんです。
産地が一つになるには、糸がポイントだと思っています。シャツ、シーツ、ストール、ハンカチなど、播州織から生まれる製品はいろいろありますが、みんなが一つになれる共通点は糸です。特化したオリジナル糸を生み出すことで、産地が一つになれると思っています。
そのために今の目標は、亜麻から採れた繊維を自社で糸にすること。番手(太さ)や撚りを独自で設計できるので、風合いや品質にこだわった斬新な提案ができます。その第一歩として、綿との混紡糸から始めているところです。
3. 若者が働きたくなる町をめざして
私の最終的な夢は、多可町を「亜麻の里」にすること。亜麻で多可町を活性化させることです。安心・安全・ヘルシーな亜麻仁ケーキの商品化、自家栽培によるリネン織物の商品開発、酒米と亜麻のコラボレーション、販路の世界進出…。
今までにないことをする。自分の代では到底できないくらい大きなこと。
それくらい大きな目標を持つことが大切です。その目標にたどりつくためには、今何をしないといけないか。ストーリーを描いて、工夫を重ねることです。
世の中にないものを、つくることができる。そんな夢を持って、若い人が働ける多可町にしたい。後継者の育成にも、取り組んでいきたいと思っています。
従業員紹介
藤川よし子さん 入社2年目
きっかけは2年前。友達に誘われて、亜麻の花を見に行ったことでした。
亜麻の花をご覧になったことはありますか? とってもかわいい花なんです。すっかり魅せられて、毎日のように花を見に畑へ通いました。
ある時「パンを焼きませんか?」って、社長さんに亜麻の実の粉をいただいて…。お菓子づくりが趣味だったので、その日のうちにパンの代わりにケーキを焼いて、お礼のつもりでお届けしました。
すると「おいしい!一緒に商品にして販売しましょう」とお誘いいただいたんです。まさか、亜麻の花を見に行ってケーキを焼く仕事に就くなんて、思ってもみなかったです。
ケーキの焼型を探すことからのスタートでしたが、2ヶ月後には商品に! 最初は失敗の連続でした。シフォンケーキなのにふくらまない。焦げてしまう。温度管理が思うようにいかない。等分に切れなくて、お客様から「ケーキの大きさが違う」って苦言をいただいたこともありました。
でもね、失敗するとそれがエネルギーになって頑張れるんです。どこが良くないのか、どうしたら失敗しないのか。改良点を探して工夫を重ねて、模索して…。少しでもおいしいケーキが焼けるように、仕事を続けている間はずっと挑戦です。
今、亜麻仁ケーキは「シフォンケーキ」「チーズケーキ」「マドレーヌ」の3種類ですが、新しく季節限定の商品を開発中です。例えば、野菜を練り込んだマドレーヌや、旬の素材を使ったシフォンケーキなど。
好評だったのは、手づくりの甘酒を焼きこんだシフォンケーキ。ふわふわに焼き上がって、試食いただいた方たちに喜んでいただきました。
イベントでは、販売にも立ちます。工夫を重ねて焼き上げたお菓子を、お求めいただくとうれしいですね。お買い求めくださる方の顔や声に、直接触れられるのはとても楽しいです。
神戸から移住して6年になりますが、多可町の住み心地はなかなかいいですよ。今年は自分でも亜麻の花を植えました。かわいい花をつけるのが、今からとっても楽しみです。
ぜひ多可町へ、亜麻の花を見に来てください。私のように亜麻の花に魅せられて、一緒にケーキ作りができる方と出会えるかもしれないって、ちょっとワクワクしています。