植山織物株式会社

製造業

しごと紹介

1. ただモノをつくるのではない、“ものづくり”とは

「織物はモノやない。精神なんや」
ある染色作家の言葉に、ものづくりの心を教わったのは数年前のこと。「あぁ、播州織も同じなのだ」と、無意識のうちに地場産業に思いをはせていた。

そんな当時の気持ちの流れがふとよみがえったのは、取材中「私たちは“ものづくり”をしている意識が強いんです」という植山展行社長の言葉に触れた時だった。

植山織物株式会社は1948年創業。播州織を製造現場で支え続け、まもなく70年目を迎える老舗企業だ。100台を超える織機が勢い良く音を立てる工場は、産地最大級の規模。ここから年間およそ300万メートルにおよぶ生地が織り上がる。シャツにして約150万着分に相当する量だ。

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製造工程が細かく分かれた分業体制中心の産地にあって、糸づくりから製織・縫製・最終製品販売まで行えるトータルな対応力は、グループ会社ならでは。活発な展開を続ける海外――欧米ではパリ・ロサンゼルス・ニューヨーク、アジアでは上海・杭州・深圳・タイ――に構える事務所やグループ企業を拠点に、国内でのものづくりを世界中へ発信している。

「海外への進出は、ブランド価値を高めるためのイメージ戦略の一つでもあります。150名のスタッフたちみんなが挑戦的で前向き。世界に打って出るんだという意識を共有しています。成長なくして発展なしです」

“いいもの”をつくっている自負と、激しい時代変化に対応し進化し続けようという前向きな危機感が原動力になっていると、植山社長は語る。

2. 世界が認める、ストーリーにあふれた「日本品質」

「綿の段階から選び抜いた高級綿糸もありますよ」

播州織は、先染め織物と呼ばれる。織りあがった布地を染色するのではなく、糸を先に染めた色糸を組み合わせることで複雑な色柄を表現する。織り上がる生地の風合いや色柄は、糸の良し悪しで決まると言っても過言ではない。植山織物では紡績工場での紡機にもこだわり、自社のオリジナルネームを持つ高級糸を開発している。

また、他産地とのコラボレーションによる素材開発にも積極的。
岡山・広島で染めあげるインディゴ(藍)の糸を使ったデニム地は、「インディゴなら植山」と言われるほど、地元産地の中では特化した商品。その他、綿ウールや綿シルクなど、播州織の新た可能性を常に模索し続けている。

「欧米やアジア地域からの見学者が多いんです。世界的ブランドの副社長も来社され、ストーリーのあるものづくりを認めて帰られました。商品がただ製造されている工場ではなく、企業としての歴史、長年勤続している従業員たち、そこから生まれる豊かな人間味…そういった現場にあふれるストーリー性が、播州織の良さだと思っています」

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そんな植山織物株式会社は、ものづくりへの情熱やこだわり、世界的評価に値する品質が認められ、2015年4月「J∞QUALITY(Jクオリティ)」認証を取得した。

「J∞QUALITY」とは、一般社団法人 日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)による、新しい純国産ファッション商品の統一ブランド。「日本が世界に誇る、本当の日本品質の証明」をコンセプトに、織り・編みから染色整理加工、縫製、企画・販売まで、すべてを日本国内で行った商品にのみ与えられる称号だ。

「J∞QUALITY」が求める品質と美意識。それは、植山織物株式会社が長い歴史の中で育ててきた精緻な技とストーリーそのもの。そしてもうひとつ、忘れてはいけない現場の力が、そんなものづくりを支え続ける人・スタッフの存在だ。

3. 「嫁さんも働かせたい」と慕われる職場の魅力

植山織物株式会社の特徴として、親族や身内で勤務するスタッフの多さが挙げられる。
「嫁さんも入社させてほしいんですが」。そんな希望を申し入れるスタッフも少なくない。身内が働きたい、身内を働かせたい…それだけで、働く場としての植山織物株式会社の魅力が伝わって来る気がする。

「人材はすべての源」であるとの信念の元、求めるのは「明るく、元気、前向きな人」。
ものづくりが好き、英語を生かしたい、ファッションに興味がある、地元で働きたい…あらゆるニーズに応えられるのもグループ企業ならでは。

「特に工場はコツコツと積み上げる技術職なので、永く勤めてほしい」と、出会いに期待を寄せている。

植山社長の説明を受けながら歩く広い工場内。緻密な糸の組み合わせを、黙々とチェックする人。交わす言葉が聞き取れないほど機の音が元気良く響く中、糸が織地に変わってゆく様子を織機の前で見守る人。植山社長は一人一人に声をかけ、笑顔を交わす。

大きなビームに糸が巻き取られてゆく現場では、アメリカンコミックのヒーローが手の平から放つ、何千本ものクモの糸の中に立たされているような錯覚を覚えた。白い蒸気の向こうでは、次の工程へ向かう生地が生き物のように流れている。

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糸と機械に人の想いが関わるからこそ、播州織である。
取材後、植山織物株式会社から響く機の音は、産地を鼓舞するメッセージのようだった。

経営者紹介

植山織物株式会社 代表取締役 植山展行(うえやまのぶゆき)

1. 25才で植山グループの代表に

大学を卒業後、一部上場企業へ就職し東京で働いていました。

2011年に、父である先代が59才という若さで逝去。本人も、まさか命を終えることになるとは思っていなかったと思います。ほとんどの従業員たちに知らせる間もないほど、急なことだったんです。

いずれ私が植山織物株式会社を承継することは、当時すでに決まってはいました。それでも本当に突然のことで、繊維業界のことなどまったく知らない、何もわからない…そんな中からのスタートになってしまいました。

今から4年半前、私は25才でした。

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2. 地元に感謝、歴史に感謝

会社員時代、扱っていたのは精密機器でした。一方、織物は“五感”の業界。手触りや風合いなど、感覚で判断する世界です。まったくの異業種へいきなりの転職でしたが、今こうして代表としての務めを果たせているのは、周囲の方々のサポートのおかげだと感謝しています。

植山織物株式会社は創業67年になります。

経験もない若輩者が後を継いだにもかかわらず、取引先の皆様が変わらず信頼し続けてくださるのも、この歴史があればこそ。先代が時代の転換期に土台を作ってくれていたからです。

私が生まれる前から弊社に勤めてくれている従業員たちは、私にとってはみんなが先輩。グループ各社には、まさに“番頭さん”と呼べる人たちもいてくれます。また会社の外に目を向ければ、同級生や幼なじみ、その両親など、地元ならではのつながりがいっぱいです。

この地元の地域の目が、企業統治にはとても大切。長く働き続けるには、周囲から厳しく温かく見守られている『地元』がいちばんだと思っています。

(企業統治=企業を取り巻く様々な利害関係者が企業活動を監視し、健全かつ効率的な経営を達成するための仕組み)

3. 自分たちのつくるものに、愛着を持てているか

私たちの仕事は、生活を支える衣・食・住の『衣』を請け負っています。

素材の良さ、つくる工程、つくり手の顔、こだわり。それらが満たされたものを手にすることが、丁寧に生きること・暮らすことにつながるのだと思います。生活を豊かにする大切な仕事です。

産地の中にいても、自分がつくっている生地がその後どうなっているのか、知らない人も多いんです。暮らしの重要な一部を支えるものを自分たちがつくっていることは、生地から製品になって初めて感じられること。自分で袖を通してこそ、感覚が身につく大切なことだと思っています。

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最近では、自社の製品を身につける従業員が増えてきました。生地を織るだけでなく、最終製品にまで仕上げて販売する意味は、ここにもあると信じています

4. 「お天道様は見ている」

昔から播州織は、地元ならではの風物詩。地場産業としての継続・発展が、そのまま地域の盛り上げにつながってゆきます。

播州織を産業として成り立たせ、地元で雇用を生み出す。そんな、私たちなりの地域貢献を果たすためにも『産地でつくっている生地がほしい!』と指名される織物をつくり続けたい。

「一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、高い志を持って、お天道さまに恥じない仕事をこつこつ続けること」。

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先代は、そんな自分の信念を「お天道様は見ている」という言葉に込め、口ぐせのように話していました。こつこつ、まじめに働き続ける姿勢と想いを、私も変わらず大切にしてゆきます。

今年、友人に誘われて初めてマラソンに挑戦したんです。体を動かして、体力を維持しなくてはいけないなあと思って。健康管理も大切だと実感しています。周囲からは『早く結婚しろ』と言われていて…。これからの大きな目標……かな?

従業員紹介

多田兼清(ただかねきよ)34歳 西脇市出身 8年目

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4歳からスケートを始め、学生時代はスピードスケートの選手として練習に励む毎日でした。ずっとスポーツに携わり続け、8年前から今の職場で働いています。地元で就職したかったんです。織物業に就いている父の「同じ仕事に携わってほしい」という思いにも応えたかったので…。

今の仕事は、スケートに通じる面がたくさんあることに気がつきました。先輩は後輩の面倒をみながら、技術や心構えを継承します。仕事も一緒です。当時の経験が、後輩への指導に生きることが多いと感じています。

私の仕事は、生地を織る前の糸の準備です。生地がデザイン通りに織り上がるよう、糸が正確に並べられているか確認する作業です。糸の数は3000本~6000本。1本の間違いも許されない繊細な仕事です。

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織物の経験も無く入社したので、その作業の細かさに初めはとまどいました。でも、自分が関わった仕事が生地という形になることで、成果や結果を目で見ることができる。その楽しさを感じながら働いています。

糸をつなぐ仕事は、気配りをつなぐ仕事でもあると感じます。

生地になるまでの流れの中で、次の工程に携わる人が作業をしやすいよう、ちょっと気を配って自分も丁寧に作業をする。すると次の人も働きやすくなり、仕事全体がスムーズに進みます。その結果、世の中に認められるいい製品が生まれます。そこに自分も関わっているんだと思うと、やりがいにつながりますね。

技術は年数を重ねれば身に付きますが、そうした意識や想いは自分の心がけ次第。自分が何を持って仕事に取り組むかが大切だと、日々感じます。

ひとつの仕事に関わったみんなの思いがつながって、認められる。モノが届くことで、気持ちも届く。それこそが、メイド・イン・ジャパンの良さであり、日本人らしい心が支える日本のものづくりだと思います。日本人らしい気心で、日本人らしく仕事がしたい。それが後世に残っていけばいい。 大切に引き継いでいきたいです。

現在は、多可町が生活の中心です。地場産業に携わることは、自分の町へ愛着を持つことでもあると気がつきました。人とのつながりや関わり合い、向き合う日々を大切にしながら、この地元で働き暮らしていきたいと思っています。

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ライター:内橋 麻衣子

求人情報

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企業情報

会社名称 植山織物株式会社
本社所在地 〒677-0114 兵庫県多可郡多可町八千代区仕出原681
HP http://www.ueyama.net/
事業内容 織布、アパレル製品企画・販売